『HADO LIFE』2025年秋号
聞き手*合同会社オフィスマサルエモト顧問
根本泰行

聞き手*株式会社I.H.M.代表取締役社長、
合同会社オフィスマサルエモト代表
江本博正

 

液体の水には「高密度液体」と「低密度液体」の2種類の「相」があるということを、X線電子分光法を用いて実験的に証明した、世界的に著名な水の研究者であるアンダース・ニルソン博士にインタビューしました。

 

根本 ニルソン先生、最初に簡単な自己紹介をお願いします。

ニルソン博士 私は現在、ストックホルム大学で化学物理学分野の教授を務めています。加えて、スタンフォード大学でも光科学分野の教授として職務を兼任しています。
 私の経歴としては、スウェーデンのウプサラ大学にて、ノーベル賞受賞者のカイ・シーグバーン(Kai Siegbahn)先生が設立したX線電子分光法を研究する研究室で、1989年に物理学の博士号を取得しました。しばらくスウェーデンに滞在した後、アメリカ・カリフォルニア州にあるローレンス・バークレー国立研究所に客員研究者として赴任しました。
 こうした経緯を経て、スタンフォード大学にて、光科学の分野で教授に採用されました。スタンフォード大学では15年間在籍し、2014年には、海外から優秀な科学人材をスウェーデンに招致する特別プログラムの一環として、再びスウェーデンに戻ることになりました。

水の不思議な物理特性

根本 ニルソン先生が制作されたドキュメンタリー映画『Water: the Strangest Liquid』(直訳すれば『もっとも奇妙な液体:水』)を拝見いたしました。とても美しい映像の数々に感動しました。先生が水の研究に興味を持たれたキッカケについて、教えてください。

ニルソン博士 これは偶然のようなものでした。というのも、私はもともと別の分野を研究していたのですが、X線技術の専門家でもありました。そして実際に、水に溶けた状態のグリシンというアミノ酸を、X線技術を使って調べていたのです。
 ある日、水だけを取り出して測定することになりました。この技術を使って背景として存在している水を測定したところ、奇妙なことが観察されたのです。その時点では「まあ、大したことはないだろう」と思っていました。ところがその後、この現象が非常に重要であることが分かってきました。
 そして、私の研究は多くの関心を集めてきました。当初は背景として捉えていた水に関わる現象が、主要な研究対象となってきたのです。

ドキュメンタリー映画【予告編】『Water: the Strangest Liquid』(水:もっとも奇妙な液体)
この科学ドキュメンタリーは、私たちの体の大部分を構成する謎めいた物質、水について、画期的な洞察を明らかにします。しかしながら、水の特異な性質の起源を分子レベルで説明できた人は誰もいません。本作では、フランチェスコ・ショルティーノ教授が提唱した2つの液体に関する理論的仮説から、スウェーデンのストックホルム大学のアンダース・ニルソン教授率いるチームが、誰も不可能だと考えていた実験を行いながら、極限条件下で水を試験する実験まで、科学の探求を追っていきます。

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